MY NAME IS DREAMER
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↓の続きです。
プロットの様な拙い文です。
加地が可哀想なお話なのでご注意下さい。
知っていたんだ。
彼が、誰を見ていたのかを。
知っていたんだ。
僕以外の人が何人も彼を見ていたことを。
知っていたんだ。
その中に、彼の想い人が居たことも。
彼らは周りからは犬猿の仲だと思われていた。
でもそれは、お互いが意識し過ぎて上手くコミュニケーションが取れていないだけ。彼等と話すようになってすぐに分かった。
過剰なほど気になる相手。そんなの、恋と変わらない。
でも、それなら、もしかして僕にもチャンスがあるんじゃないかとわずかな希望に賭けた。
自分の気持ちに素直に慣れない彼等が足踏みしている今なら、僕の想いを彼が少しは考えてくれるのではないかというわずかな希望。
彼が土浦に惹かれたのはきっと容姿ではない。
土浦の持つ独特な包容力、そして彼の音楽にだろう。情熱的で感情豊かな演奏であるのに、確かな技術があるため独りよがりの演奏に決してならないそのセンス。
『本物』の実力と才能。
僕が憧れ、自身に絶望した、それ。
彼がなにより愛する音楽に見放されている僕。
同性である僕。
マイナス点は有り余る。
だから彼が嫌悪を感じないように、ゆっくり彼に思いが伝わるように、慎重に今日まで来た。
周りにはもう僕の思いは気づかれているだろうという自覚はある。
でも1日、また1日と、彼の側で日を過ごす度に、怖いくらい際限なく愛しさは募っていく。
少し眉根を寄せた顔、呆れた顔、驚いた顔、恥ずかしかったり照れた時の顔、それから始めは見せてくれなかった笑顔。
彼の仕種一つが、彼の言葉一葉が、彼の音色の一音が、震えるほど愛おしくてどうしようもなかった。
だから、今日、想いをはっきりと伝えるつもりだった。
気を抜けば暴走してしまいそうな想いを抑えていることで精一杯だったんだ。
だから気が着けなかったんだ。
そんな僕の行動が土浦の気持ちを焦らせていることに。
目からは勝手に涙が流れ続けていた。
学院に居てはそんな状態を誰かに見られるとも限らない。
ダダ漏れの僕の恋心を周りは知っているから、そんなことになったら彼に迷惑が掛かってしまうかもしれない。
そんな思考が頭をよぎり、ひたすら足を動かし、気が付いたら近くを流れる川まで辿り着いていた。
ヴァイオリンをヴィオラに持ち替えたあの日以来泣いていなかったから、泣き方を忘れてしまったのだろうか。
壊れた水栓の様に、涙は一向に止まってくれる気配がない。
だけど泣きながら電車に乗り、醜態を衆目に晒す豪気も今の僕には・・・ない。
仕方ないので川を眺めて居る振りをしながら、少し落ち着くまでこの場所に留まることにした。
幸い学院から離れた位置で、ここを徒歩で通る学生もほぼ居ないだろう。
今が黄昏時でよかった。
橙に染まった世界では、全ての輪郭が曖昧になる。
僕の姿も。
きっと涙も。
いっそ輪郭をなくし消えてしまえばいいのに。
この惨めなプレゼントも。
この想いも。
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次から柚木先輩登場予定です。
チョロッとでも感想頂けると嬉しいです。